狐は豚に貢ぎたい

露文徒の雑記

チェルヌイシェフスキー「何をなすべきか」について

今回はニコライ・チェルヌイシェフスキーが1863年に獄中で執筆した「何をなすべきか」(原題:Что делать)です。

この作品は当時の青年たちや後の革命家たちに多く読まれ、レーニンの愛読書にもなったロシアでは重要な作品です。

長い話なのであらすじでは細かいエピソードは省いて書きます。

 

簡単なあらすじ

主人公ヴェーラ・パーヴロヴナは、ペテルブルグに住む一般的な家庭の娘で、いつも親に縛られて過ごしています。(彼女はのちにこの状態を地下室と表現しています。)

母親のマリア・アレクセーヴナは、金に貪欲な人間で名誉欲もあり、娘をいいところの息子と結婚させようとします。

しかし、ヴェーラ・パーヴロヴナは、その結婚相手が人間性に問題を抱えていることにすぐに気づき、結婚することを拒みます。

なんとか結婚させようとする母親と結婚するまでの期間を伸ばす約束を取り付けます。

 

その後ヴェーラは、なんとか結婚せずに済む方法を考えていると弟の家庭教師をしているロプホーフという医学生と知り合い仲良くなります。

やがて二人は恋に落ち、ロプホーフはヴェーラの家から助け出し、結婚せずに済む方法を考えます。

最初家庭教師として住み込みで雇ってくれる家を探しましたが、見つからなかったため、偽装結婚という形でヴェーラを家から連れ出すことにし、その企みは成功します。

 

結婚後二人は、三つの部屋のある家に住みます。二人の自分の部屋とその中間の部屋です。お互いの部屋に入る時は必ず許可を得なければならず、会う時は基本中間の部屋に正装をして出るというルールでした。

会うのは朝と晩の茶の時間で二人とも一人の時間を大切にしていました。

 

ロプホーフはもともと教授職を目指していましたが、結婚するにあたってその夢を捨てて大学を辞めて、家庭教師と事務仕事をすることになりました。

一方でヴェーラ・パーヴロヴナは知り合いの助けを得て裁縫工場を立ち上げました。

説明が難しいですがこの工場は当時としては新しい今でいう労働組合の原理を用いたところ大変うまくいきどんどん規模を拡大していきました。

 

結婚してから数年間ヴェーラは、ロプホーフの医学生時代の友人であるキルサーノフと3人で毎日楽しく過ごしていましたが、ある時期になるとキルサーノフは全く訪問しなくなり、ヴェーラは夢を見ます。

その夢の中でヴェーラの前に美しい声を持った女性が現れ、その女性がヴェーラの日記に手をかざすとヴェーラはロプホーフを愛していないという文字が浮かび上がります。(ヴェーラ・パーヴロヴナ第3の夢)

 

ヴェーラがそのことをロプホーフに相談するとロプホーフはキルサーノフが原因であることに気づき、なぜキルサーノフが訪問しなくなったかを考えるとキルサーノフがヴェーラに恋しているという事実が導き出されました。

やがてそのことにヴェーラも気づき、自分もキルサーノフを愛しているとロプホーフに打ち明けます。

 

その後ヴェーラとキルサーノフは頻繁に会うようになり、逆にロプホーフは二人から遠ざかっていき、ついに偽装自殺をし、二人の前から完全に姿を消します。

この後二人は結婚し、幸せに暮らしていきます。

 

5章以降では、カテリーナ・ヴァシーリエヴナという女性に焦点が移ります。

カテリーナ・ヴァシーリエヴナは郊外の豪商の娘で、その財産目当てに多くの男が言い寄ってきていました。

ある時カテリーナはある男に恋をしまうが、父親がその男のことを悪党だというので、それが叶わぬ恋になったと知ったカテリーナは悲しみ病気になってしまいます。

カテリーナは日に日に衰弱していき、父親は多くの名医を呼んで診せますが、カテリーナは何も言わないので誰にも原因がわかりません。

ある日キルサーノフが立ち合い診療に訪れます。(キルサーノフはこの時ヴーラとの結婚前で、すでに有名な教授でした。)

キルサーノフはすぐにカテリーナの病気が精神的な原因だと気づき、協力するから自分に事情を話すよう求めます。

事情を聞いたキルサーノフは、彼女の父親に対し、「その男が本当に悪党なら彼女もすぐに気づくはず」と言って説得して彼女と男の交際を認めさせます。

カテリーナはしばらくすると父親とキルサーノフが言ったように男が性格に問題を抱えていることに気づき結婚するという考えを捨てて別れます。

このことでカテリーナはキルサーノフに感謝します。

 

その後数年経ち、カテリーナは父との取引で工場を経営することになるアメリカ人のビューモントと知り合い恋に落ちます。

ビューモントは自分も工場経営をしたいというカテリーナにペテルブルグにあるキルサーノヴァ夫人が経営している工場を見に行くように勧めます。

それを聞いてカテリーナはキルサーノフが結婚していることを知り、すぐに工場を視察しにいきます。

カテリーナはヴェーラ・パーヴロヴナに工場や女工たちの宿舎を連れられ、システムの説明を受け感動します。

その後カテリーナとビューモントは結婚することになり、そのことをヴェーラ・パーヴロヴナに伝えると二人は意気投合し、カテリーナの夫婦とヴェーラの夫婦は郊外の隣り合った家に住むことになります。

 

その後カテリーナも自分の工場を持ち、そうして二組の夫婦は毎日一緒に夕を過ごし、幸せに暮らしましたとさ。

 

感想

この小説に関しては重要なことが多いんですけど、言いたいことがあるので先に感想を書きます。

 

とにかく僕はヴェーラ・パーヴロヴナが大嫌いです!

せっかくロプホーフが毒親から引き離してくれたのにそのロプホーフを裏切って浮気するなんてあり得ないです!

しかもよりによってロプホーフの親友のキルサーノフと!

この女は人間としての心を失ってます。

 

ヴェーラ・パーヴロヴナの家は別に金持ちじゃないし、受けてきた教育も普通のはずなので普通の家庭の娘と変わらないはずなのに、ちょっと周りに医学生とか賢い人が多いからって自分まで賢い人間だと思い込んでいるのも気にくわないです。

知り合っても絶対仲良くなれないし仲良くなりたいとも思わないですよ。

僕はこんな貧乏人より「エフゲニー・オネーギン」のタチヤーナみたいな地方の令嬢が好きです。

 

まあ夫の親友と不倫して夫を自殺に追い込むという筋は、不倫小説としては悪くはないです。トルストイの小説だと浮気した方が殺されたり自殺することが多いですが、今回の浮気された側が偽装自殺するというのは新しいと思います笑

もしかしたら一般的な不倫の終わり方に反論しているのかもしれません。

ただこの作者の書き方も気にくわない点が多いです。書かれている思想がすごくても文学作品としての評価が低い理由が何となく伝わってきました。

 

そもそもヴェーラ・パーヴロヴナはなぜ浮気したのか

ヴェーラの心の移り変わりはあまり描かれてないんですけど、作中では二人の性格の不一致が原因だと述べられています。

結婚した時まだヴェーラは19歳と若くて年上の賢いロプホーフを尊敬していたのでロプホーフに合わせようとしていましたが、何年か経ちヴェーラも人間として成熟することで二人の性格の不一致が露わになったということでしょう。

まあこれはよくあることです。最初は好きだから合わせられるけどいずれそれができなくなった時自分たちが合わないことに気づくのです。

 

それから二人は最初はあらすじで書いた通り三つの部屋を使っていましたが「ヴェーラ・パーヴロヴナ第3の夢」以降は二人は同じ部屋に住むんですけど、それもよくなかったんじゃないかと僕は思います。

実際その後ヴェーラはキルサーノフと結婚した後また三つの部屋に戻しています。

この家のルールの話は他にもいろいろあるのでそのうち全部ちゃんと考えてみます。

特徴・文学史上の意義

この作品の大きな主題は理想の生活と女性の解放です。

僕がこの作品に興味を持って読もうと思った理由は前者ですが、後者の方がインパクトが強かったです。

まずは、最初のヴェーラが置かれていた環境や5章のカテリーナの話から当時の娘の家庭での立場の弱さが窺えます。とはいえ家父長権が強いのはこの時代どの国でも同じことなのでこれはまだ弱いです。

 

次はヴェーラが経営していた裁縫工場です。

ここでは、働く全ての女工に正当な報酬が支払われるだけでなく、教育を受けることができ、必要なものを安く買うことができます。

余剰金は貯められてある従業員に臨時の資金が必要になった時(妊娠や事故など)支給できる保険のような制度もありました。

ここまでくれば19世紀半ばのロシアとしては新しいと言えるかもしれません。

 

次はヴェーラの夢です。

ヴェーラは作中ところどころで夢を見ます。それはロプホーフが自分を地下室から解放してくれることを暗示していたり、自分がロプホーフを愛していないことに気づかせてくれるなど重要な役割を果たしています。

なかでも女性の解放と直結している夢が 「ヴェーラ・パーヴロヴナ第4の夢」です。

この夢の中ではヴェーラの前に女神が現れ、ヴェーラに未来を見せてくれます。

そこでは女性は自由でみな幸せに暮らしています。

女神はその未来を実現するために女性を解放するために日々励んでいると言います。

これは女性の解放について直接言及しているで強い思想の暗示と言えるでしょう。

 

理想の生活の方は、さっきあらすじで書いた三つの部屋の話とか二組の夫婦の幸せな暮らしとかそんな感じでしょう。

 

チェルヌイシェフスキーについて

チェルヌイシェフスキーは日本で言う吉田松陰みたいな人らしいです。

ずっと投獄されてたけど、当時は革命思想を持った若者から支持されてて、その思想の影響は強かったとか、、

この作品も検閲に引っかからないように細心の注意が払われて思想が鏤められているそうです。

だから無駄な部分が多いとしか思えないめんどくさい書き方してるのかもしれませんね。

 

まあ読んでみて思想の強い作品だとは思いましたが、レーニンのような後の革命家たちがこの作品のどこに魅了されたのかはよくわかりませんでした笑

めんどくさかったので今回は調べませんでしたが、そのうちこの作品の与えた影響についても調べます。

 

とにかく僕はヴェーラ・パーヴロヴナが嫌いです(しつこい)

 

 

白石聖を推してます